【映画】「劇場」― 夢と愛のはざまで揺れる心の物語

劇場を観ました。

超人気の役者を主役、ヒロインにもってくるあたり又吉さんへの期待が伺われます。

Retty

1. 基本情報とイントロダクション

2020年に公開された映画『劇場』は、芸人であり芥川賞作家の又吉直樹による同名小説を原作とし、『世界の中心で、愛をさけぶ』『GO』などで定評のある行定勲監督がメガホンを取った作品です。

主演は山﨑賢人、ヒロインには松岡茉優を迎え、夢と愛のはざまで揺れる男女の7年間を切なく美しく描きます。

「夢を追いかけること」と「誰かを愛すること」

どちらも人生には必要ですが、この二つを両立させることがいかに困難か。

劇作家を目指す青年と、その恋人との関係は、観る者に切実な問いを突きつけます。その背景には、誰もが感じたことのある痛みと後悔が静かに揺れています。


2. あらすじ(ネタバレなし)

主人公は劇作家を目指す青年・永田(山﨑賢人)。

劇団を立ち上げるものの結果は出ず、焦燥と孤独に苦しんでいます。そんな彼が偶然出会ったのが大学生の沙希(松岡茉優)で、靴のデザインに共鳴して声を掛けたことがきっかけで恋に落ちます。

やがて同棲を始めた二人。

沙希はアルバイトしながらも永田を支え、彼を信じ続ける存在です。

しかし永田は自己表現に執心するあまり、沙希への優しさを欠くようになっていきます。夢と愛の葛藤に揺れながら、二人の7年間は静かに壊れていく…


3. メタファーとテーマの奥深さ

『劇場』というタイトルは、ただの舞台装置を意味するのではありません。

人生そのものを映し出すメタファーとして、登場人物の内面を揺さぶります。

永田は、自分の人生を「脚本」として演出しようとする反面、感情の登場人物でもある。その矛盾こそが、本作の骨格です。

夢を追うゆえに誰かを置き去りにした経験。

愛ゆえに誰かの夢を諦めさせてしまったジレンマ。

そんな普遍的な葛藤を見つめる映画だからこそ、多くの観客の心に深く響くのです。


4. 写真で切り取る『劇場』の世界

冒頭の象徴的な場面

『劇場』

緑の光の中で佇む永田と沙希。未来への希望と過去の影が交錯しているような、この静かな一瞬にこそ、二人の物語全体が沁み出ています。美しくも儚い関係の始まりを象徴するショットです


5. 「実は…」という制作秘話

キャスティングに込められた意図

行定監督は、「山﨑賢人の美しい顔を“汚したい”」という独特の理由で彼を主人公に起用しました。

映画では無精ひげやぼさぼさヘアというビジュアルで、永田の未熟さと醜さをあえて見せています。

芝居の自由を尊重した現場

「どう終わってもいいから永田として動いてみて」と監督が言ったというこの現場は、演技の即興性と感情の生起を重視していました。

行定監督自身、「観客にわかってもらおうとは思っていない」と語り、人物の“現実の生”に委ねた演出が光ります。

松岡茉優の自然体の演技

沙希役の松岡茉優には、監督が極力演技を指示しなかったと言います。

表情や間合いで感情を紡ぐ彼女の自然な演技は、愛と疲弊のはざまに揺れる沙希の心をリアルに体現しています。

初号試写での感情の爆発

行定監督自身が「嗚咽に近い状態になった」と語るほど、本作には強烈な情動が込められています。

スタッフも含め、初号試写で涙を止められないほどだったのだとか。作品のエモーショナルな深さを物語るエピソードです。


6. 登場人物と心境の機微

永田(山﨑賢人)

夢に正直すぎるがゆえに、自分の未熟さを露にしてしまう青年。

彼の心の揺らぎは「欲望」と「罪悪感」の葛藤であり、それは観客にも見覚えのある痛みです。

自己中心的とすら思える行動にも、どこか理解できてしまう。だからこそ彼の姿に胸が揺さぶられます。


7. 心情を映すもう一枚の写真

劇場

一瞬だけ見せる永田の哀しげな表情。夢に突き進む強さの裏にある脆さが、見た者の心をそっと突くショットです。まるでセリフのない心の叫びが、静かに伝わってくるような一枚。


8. 感想・総評と個人の視点

『劇場』は、「夢を追い続けることの美しさ」と「その代償の痛み」を並列に描きます。

永田の未熟さに苛立ち、沙希の献身に胸が痛くなる。

「自己中心的でも共感してしまう」

そんな葛藤そのものが、この映画の核心です。

多くの観客にとって、永田は“自分の過去”に重なるキャラクターでしょう。

恋人の存在を当然だと思えずに失ってしまった経験、夢に忠実すぎて誰かを遠ざけた過去…そんな記憶を呼び起こす映画です。


9. ラストを象徴する淡い瞬間

劇場

公園のベンチで佇む二人。かつて交わした笑顔の数々が遠く思えるような、静寂が漂う構図です。失われた時間と後悔が、見ている者の胸にじわりと染みこんできます。


10. 終章:大人の恋愛映画として

『劇場』は、甘い青春映画ではありません。

リアルな痛み、未完の感情、すれ違いの悲しみ。

そして、愛と夢という二重奏。人生の“劇場”は、いつだって未完成で、矛盾と痛みに満ちています。

そんな人生の断片を映すこの映画には、「答え」はありません。

ただ、心に刺さる“痛みのリアルさ”だけが、観客の記憶に刻まれます。

夢と愛、そのはざまに揺れる心の物語。

『劇場』は、過去の自分と静かに向き合うきっかけをくれる、大人のための恋愛映画です。

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