「この世で最も黒い絵、見てみたいと思わないか?」
荒木飛呂彦の人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』スピンオフから生まれた、実写映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』。
NHKドラマでの実写化を経てスクリーンに舞台を移し、奇妙で美しい、そしてどこかゾッとするアートサスペンスへと昇華しました。

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◆ 作品情報
- タイトル: 岸辺露伴 ルーヴルへ行く
- 公開日: 2023年5月26日
- 監督: 渡辺一貴
- 原作: 荒木飛呂彦(『岸辺露伴は動かない』/集英社)
- 脚本: 小林靖子
- 主演: 高橋一生(岸辺露伴)、飯豊まりえ(泉京香)、木村文乃、長尾謙杜(なにわ男子)、安藤政信 ほか
- ロケ地: フランス・ルーヴル美術館(日本映画初の正式撮影)
本作はホラー・ミステリー・芸術・スタンド能力という『ジョジョ』らしい要素が、美術館という“静謐な空間”で交錯する異色の映画体験です。
◆ あらすじ:黒すぎる絵に隠された「呪い」と記憶

売れっ子漫画家・岸辺露伴は、過去に出会った“謎の女性”の言葉をふと思い出す。
「この世で最も黒い絵、知ってる?」
記憶の断片に導かれ、彼はその絵がルーヴル美術館に所蔵されていることを突き止める。そして編集者・泉京香と共にフランスへ渡るが、現地の学芸員や関係者たちが次々と不可解な死を遂げていく。
絵を見た者に災いが降りかかる“呪い”。
黒い絵の正体は?
露伴は「ヘブンズ・ドアー」の能力を駆使して、真実に迫っていく。
◆ 見どころ解説:岸辺露伴らしさ全開の映画表現

1. ルーヴル美術館での“本物の撮影”
本作最大のトピックのひとつが、日本映画として初めてルーヴル美術館内で正式に撮影されたこと。
夜の美術館を照らす緊張感あるライティング、石造りの地下通路、展示室の荘厳な静寂——すべてがリアルで、美術館自体が“キャラクター”のような存在感を放っています。
2. 高橋一生の“露伴”がもはや原作超え
高橋一生の繊細かつ鋭い演技が、本作でも冴え渡ります。独特な間合い、理知的な口調、神経質なまでのこだわり。漫画からそのまま抜け出たような岸辺露伴像は、原作ファンも唸る完成度。
「岸辺露伴は“恐怖”を知りたいんじゃない。“真実”を描きたいんだ。」
というスタンスが、映画全体の知的なトーンを形作っています。
3. ジョジョらしいスタンドバトルは控えめに

本作では、荒木飛呂彦らしいスタンド能力は“ヘブンズ・ドアー”のみ。
その代わり、“言葉で心を読んで改変する”というこの能力が、サスペンスの中でスリリングに活かされています。アクションではなく“探究”で物語を進めていくスタイルが、本作の大人な雰囲気を支えています。
◆ ネタバレあり:最も黒い絵と露伴の罪
※この先は映画の核心に触れる内容を含みます。

露伴が追い求めた“最も黒い絵”は、実は数百年前に封印された呪われた日本の絵画。
その絵の顔料には“人間の怨念”が塗り込まれており、見た者の記憶の奥に潜む“最も後悔している記憶”を現実にしてしまう、という恐るべき力を持っていました。
露伴自身もまた、子供のころに出会った女性と関わる“記憶”を絵によって呼び起こされ、心の奥底にしまっていた“ある後悔”と向き合うことになります。
「黒い絵に殺されたのではない。自分自身の後悔に殺されるのだ。」
という台詞が象徴するように、この物語は“絵”が呪いの道具なのではなく、“心の闇”を引き出す鏡なのです。
◆ 実はこんな設定が…
- ルーヴルにあるはずのない“日本画”
登場する黒い絵は、日本の漆黒の絵師・西京宗蓮(架空の人物)によって描かれたもの。なぜそれがフランスに?という謎も含め、文化・時代・人間の怨念が交差する物語設計。 - ヘブンズ・ドアーは倫理を問う能力
相手の記憶を読み、ページにして書き換える。便利な能力である一方、「相手の尊厳を侵していないか?」という倫理的な問いも内包している。
◆ 原作との違いと補完

原作『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は2009年にフルカラーで発表された短編読切作品。
映画ではこの短編をベースに、ルーヴルでの出来事だけでなく、露伴の過去や“記憶に関わる人物との因縁”が丁寧に描かれ、約2時間の構成に深みを与えています。
原作ファンも楽しめる“再構築”と、“実写ならではの空気感”の両立が光る作品です。
◆ 伏線と回収:物語を支える静かな仕掛け

- 冒頭の女性の言葉「最も黒い絵を見て」は、露伴の原罪とつながっている
- 地下に保管された“絵”とその由来は、過去の記憶と一対で描かれる
- 編集者・京香のある行動が、後に露伴を救うカギとなる
回収される伏線のほとんどが“記憶”に関わるもので、記憶と視覚芸術(絵)を巧みにリンクさせた構造が秀逸です。
◆ まとめ:これは“アートで描くホラー”である

『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は、ジャンルとしてはホラーやミステリーに括られることが多いですが、実はとても文学的で哲学的な映画です。
- 人はなぜ後悔を記憶に封じ込めるのか?
- 芸術は“恐怖”を記録するものなのか?
- 真実を暴くことに、意味はあるのか?
こうした問いが、淡々と、しかし確実に胸に残る作品です。
◆ 最後に
芸術とは記録であり、そして時に“呪い”でもある——。
そんな恐ろしさと美しさを同時に描いた『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』、静かな恐怖をぜひ体感してください。
ジョジョシリーズの中でも人気の高い岸部露伴。
荒木先生も特別な思い入れがあるようですね。
杜王新報 特別版では人気漫画家同士による夢の対談として、岸部露伴×荒木飛呂彦の対談の記事もあるとか!

また荒木先生も誰かにメッセージを送る際、文章の最後に岸部露伴と名前を添えたりされるようですね笑
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