「母は私を愛していた。それが、すべての始まりだった。」
2020年公開のサイコスリラー映画『RUN/ラン』は、母と娘という最も身近な関係性に潜む“支配”と“恐怖”をリアルに描き出します。
本記事では、あらすじからネタバレ、見どころ、隠された設定まで深掘りしてご紹介します。

目次
◆ 作品情報
- タイトル: RUN/ラン
- 原題: RUN
- 公開: 2020年(日本公開:2021年)
- 監督: アニーシュ・チャガンティ(『search/サーチ』)
- 主演: サラ・ポールソン(ダイアン役)、キーラ・アレン(クロエ役)
- ジャンル: サイコスリラー
- 上映時間: 約90分

◆ あらすじ:世界は、母の手のひらの中にあった

クロエは、生まれつき多くの持病を抱える17歳の少女。
喘息、糖尿病、麻痺のため車椅子で生活し、外界とはほぼ断絶された“自宅学習”の中で母・ダイアンと暮らしていました。
しかし、ある日届いた薬のラベルに書かれた奇妙な薬名、インターネットへの制限、家から出られない環境…。
「この世界は母の掌の中だけだったのか?」
疑念を抱いたクロエは、母の“愛”の裏側に潜む真実に近づいていきます。
◆ 見どころ解説

サラ・ポールソンの怪演が怖すぎる!
優しく見守る母親かと思いきや、ふとした瞬間にのぞく冷たい眼差し。
サラ・ポールソンの表情の変化や間合いは、まさに“静かな狂気”を体現。
観ている側も、いつ豹変するかわからない恐怖に飲み込まれます。
クロエを演じるキーラ・アレンのリアリティ
実際に車椅子生活をしている俳優・キーラ・アレンが演じることで、クロエの行動一つ一つに説得力が加わっています。演技力だけでなく、身体的制限を突破して見せる彼女の“闘い”は見応えあり。
シンプルな舞台構成と濃密な心理描写
登場人物は実質的に母娘+ごく少数の脇役。舞台もほぼ家の中だけ。
それでもスリルと緊張感が続くのは、緻密な構成と脚本の力。90分がまったく長く感じません。
◆ ネタバレあり:狂気の母、覚醒する娘
※以下、映画の核心的なネタバレを含みます。未視聴の方はご注意ください。

クロエが母に与えられていた薬は、実は「犬用の筋弛緩剤」だったことが判明します。
その異常な行動に気づき始めたクロエは、外界との接触を試みるも母にすべてを阻まれます。
そしてついに、彼女はある“秘密の部屋”に閉じ込められ、信じがたい真実を知るのです。
- クロエは実の娘ではない
- ダイアンの娘は出産直後に死亡
- クロエは病院から“誘拐”され、娘として育てられた
- クロエの病気は母によって“作られた”もので、自ら麻痺させられていた
「愛していたから、失いたくなかった」
——母の愛は、狂気と依存によって支配へと変わっていたのです。
◆ クライマックス:決別と再生

クロエは、薬の影響で動かぬ身体を奮い立たせ、命懸けで母からの脱出を図ります。
地下室での真実の暴露、母の妨害、ギリギリの脱出劇——このラスト30分はまさに息を呑む展開。
そして数年後。
クロエは大人になり、母を刑務所に訪れます。そしてこう語りかけます。
「ママ、今度は私があなたに薬をあげる番。」
自立したクロエの強さ、そして皮肉にも“同じ手段”で制する彼女の姿が、この映画の深いテーマを締めくくります。
◆ 作品背景とトリビア
- モチーフは実在の精神疾患「代理ミュンヒハウゼン症候群」
愛情を装い、他者を病気のように見せることで自分の存在価値を保つ心理障害。 - クロエ役は実際の車椅子ユーザー
ハリウッド映画初、主演を務めた障がい者俳優としても歴史的な意義あり。
◆ 伏線と構成の巧妙さ
- 犬用薬のラベル
- クロエの薬を隠す行動
- 外界との連絡が一切遮断されている理由
- 母の写真に映る「違う赤ちゃん」
- 地下室にあった新聞記事と病院の記録
観終わってから「あれはこの布石だったのか」と気づく伏線が多数。再鑑賞でも新しい発見があります。
◆ まとめ:この“母の愛”は、あなたをどこまで許せますか?

『RUN/ラン』は、母と娘という普遍的な関係性をテーマにしながら、その裏に潜む支配と孤独、恐怖と愛情の境界を鋭く描いた作品です。
「守る」という言葉が、いつの間にか「縛る」に変わる。
その怖さを、たった90分でこれほど濃密に描いた作品は稀です。
是非ご覧ください。
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