暑い日が続いていますね。
年々夏が長くなっているような。秋よ来い。
2016年アメリカで公開の映画「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」を見ました。
タイトルから想像すると恋愛ものだろうなぁと軽い気持ちで見始めた作品。なぜか「スイートノーベンバー」を思い出しました笑
公開 | 2016年アメリカ 2017年日本 |
監督 | ジャン=マルク・ヴァレ (カフェ・ド・フロール、ダラス・バイヤーズクラブ、わたしに会うまでの1600キロ) |
時間 | 101分 |
出演 | ジェイク・ジレンホール ナオミ・ワッツ クリス・クーパー ジュダ・ルイス |
1. 映画の基本情報とイントロダクション

邦題は「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」。
原題は「Demolition」、直訳すると「解体」や「破壊」を意味します。
このタイトルの差異が、作品を理解する上でとても重要なポイントになっています。
監督はジャン=マルク・ヴァレ。
『ダラス・バイヤーズクラブ』や『わたしに会うまでの1600キロ』など、人の心の再生や変化を描いてきた監督です。
本作でも、失うことから始まる再生の物語を、独特の映像感覚と演出で描いています。
主演はジェイク・ギレンホール。
彼が演じるのは、突然の事故で妻を失った銀行員ディヴィス。
裕福で恵まれた人生を送っていたはずの男が、感情を見失い、何も感じられないまま日常を過ごす姿が描かれます。
「喪失」と「無感情」
この一見矛盾するテーマを、どのように映像化しているのか。そしてディヴィスがどのように変わっていくのか。本記事では、その心の機微を中心に追っていきたいと思います。
2. あらすじ(ネタバレなし)

物語は、ディヴィスが妻ジュリアを交通事故で失うところから始まります。
突然の死に直面しながらも、彼は涙ひとつ流せず、自分でも驚くほど何も感じない。
周囲からは「悲しんでいない」と非難され、自分でも「なぜ悲しくないのか」と混乱します。
そんな中、自動販売機で買ったM&Mが詰まり、彼は販売会社に長文の苦情メールを書きます。
その文面は、クレームというよりも、自分の人生の告白。
妻との関係、感じられない悲しみ、心の空洞。すべてを率直に書き綴った手紙でした。
その手紙に反応したのが、カスタマーサービス担当のカレン。
やがてディヴィスはカレンやその息子クリスと出会い、心を少しずつ解体し、再構築していく旅に出るのです。
3. メタファーとテーマの奥深さ

この映画を特徴づけているのは「壊す」という行為です。
ディヴィスは壊れた冷蔵庫、軋むドア、さらには家そのものを壊していきます。これは単なる破壊衝動ではなく、「見えないものを見えるようにするための作業」なのです。
心が壊れているのに気づけない彼は、物を壊すことで自分の感情を“確認”していく。壊れた部品の奥にある仕組みを確かめるように、自分の中に眠っていた痛みを探ろうとします。
タイトル「Demolition(解体)」が示すのは、彼の心の再生のためのプロセスそのもの。邦題の「雨の日~」は詩的ですが、原題の直接性こそが本作の核心に触れているのです。
4. 邦題と原題のギャップ

邦題「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」は、観客にロマンチックで感傷的なイメージを与えます。
しかし実際の内容はもっと荒々しく、痛々しい。愛する人を失った悲しみを“感じられない”という矛盾した心境に焦点を当てた作品です。
一方で、この邦題には美しい解釈もできます。
ディヴィスは「雨の日」に心を閉ざし、カレンやクリスと過ごす「晴れの日」に少しずつ心を開いていく。
感情の陰と陽を象徴する表現とも取れるのです。観客の受け取り方を豊かにしてくれる邦題だと言えるでしょう。
雨の日には車のサンバイザーを使うことはなくて、よく晴れた日に出すものですよね。
サンバーザーから落ちてくるメモもタイトルを表現してるのかな。
5. 登場人物の描写と心境の機微

ディヴィス(ジェイク・ギレンホール)
彼の最大の特徴は「悲しめない」こと。
妻を失っても涙が出ず、義父に「悲しむ努力をしろ」と言われても、空虚さしか残らない。
しかし壊す行為を重ねるごとに、彼は少しずつ「心が反応する瞬間」を取り戻していきます。特にカレンやクリスとの交流では、怒りや戸惑い、そして小さな喜びが芽生える。
無感情から感情へと移り変わる微細な心の動きを、ギレンホールが繊細に表現しています。
カレン(ナオミ・ワッツ)
ディヴィスの手紙をきっかけに出会うシングルマザー。
彼女自身も孤独や不安を抱えており、ディヴィスの率直な言葉に共感してしまう。
カレンは彼の“壊れ方”を受け止め、そっと寄り添う存在です。
彼女の優しさは、ディヴィスが感情を取り戻すきっかけのひとつになります。
クリス(ジュダ・ルイス)
カレンの息子で、思春期の少年。
学校や家庭で居場所を失いかけている彼と、感情を見失ったディヴィスは不思議な共鳴を見せます。
二人が心を開いていく過程は、父と子でもなく、友人とも違う、不思議な親密さを帯びています。
クリスの存在が、ディヴィスに“守りたい”という感情を芽生えさせるのです。
6. 感想・総評と個人の視点

この映画を観て感じたのは、「悲しみは直線的にやってくるものではない」ということです。
大切な人を失った直後に涙が出ないこともある。
数日後に、まったく別の瞬間に、突然涙が溢れることもある。
ディヴィスの無感情は、喪失に対する自然な防衛反応なのだと思います。
そして彼が物を壊すことで心を解体し、他者との交流を通じて再び組み立てていく姿は、とても人間らしい。
観る人によって評価が分かれる作品ですが、私は「自分の心に正直になる勇気をもらえる映画」だと感じました。
悲しみを感じられない自分を責める必要はない。
大切なのは、その空白とどう向き合い、どう再構築していくか。その過程を肯定してくれる映画です。
7. 終章:自分自身と向き合う映画として

「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」は、喪失から再生までの心の機微を繊細に描いた作品です。
破壊と再生、孤独と共鳴。
人が人と出会うことで生まれる小さな光を、ジェイク・ギレンホールが圧倒的な演技で表現しました。
壊すことでしか見えない心の形がある。
感情の再発見や他者との共感が、再生への一歩になる。
そんなメッセージを静かに、しかし力強く伝えてくれる映画です。
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